「トランプ化」するアメリカ VoiceS (日高義樹著、PHP研究所)

 11月10日のアメリカ大統領選挙の結果は全世界に衝撃を与えた。わたしも衝撃を受けた一人である。その理由は、トランプのような人物が大統領に成るはずがないと思い込んでいたからである。またアメリカの支配層といわれる人々も、トランプは応援していないという報道を信じ切っていたからである。
 
 ところがいざふたを開けてみると中間報告で、最終集計ではないが、トランプ氏279票:クリントン氏が228票というかなりの大差でトランプ氏が選挙戦を制した。ところが得票数で見るとトランプ氏59,611,678 票 に対しクリントン氏59,814,018 票とクリントン氏が逆にトランプ氏を上回っている。これが小選挙区制の理不尽なところであると思うが・・。また、アメリカのマスコミはいったいアメリカの世相をどう見ていたのか。彼らの報道と現実の食い違いに違和感すら覚えた。
 さて前置きはさておき、表題の本である「トランプ化するアメリカ」を電子書籍で今年の半ばに読んだが、内容的には大きく分けて3つに分かれる。その第1は、今回のアメリカ大統領選を巡って、トランプ氏とクリントン氏がそれぞれどう見られているか、どのようなポジションについているか?であり、第2は、アメリカの国内の状況で、内部的な状況の紹介である。そして3つ目は、アメリカの国際的な位置づけを分析したものである。
 第1の部分では、著者はトランプ氏とクリントン氏の双方が、アメリカ国民にとって、それほど望ましい候補者とは思われていないということ、両候補ともアメリカ国民にとって「決まりの悪い存在」として見られているということが述べられている。そしてこの見方というのは、投票日まで決して揺らぐことなく続いたと言え、著者の日高義樹のの見方は正しかったといえる。
 第2に部分について、現在のアメリカの政治が「異常にねじ曲がって」いて、これまでもアメリカの政治の振り子が片方に振れすぎることがあったが、新しく登場した大統領がその振り子を逆方向に戻すのが常であったが。オバマ大統領はそれを戻すことなく任期を終わってしまった。アメリカ人は「アメリカ政治がうまく機能していない」という認識をトランプ、クリントン支持者共に持っている中で、今回の大統領選挙が闘われたが、大統領選は結局それを修復する方向に向かわず、「アメリカをよりひどい分裂と混乱に陥れている」と分析していた。結局この分析も著者の正しさを証明することとなった。
 第3に部分では、北朝鮮の核開発、プーチン大統領の世界戦略、中東問題、対中国問題などから、2016年以降新しい大統領の下で「アメリカのトランプ化というべき深刻な分裂、北朝鮮やロシアの核戦力の強化、中東の地獄の釜のそこが抜けたような収拾のつかない大混乱、中国の経済的発展の終焉などから、これまでにない大きな変化の時代になる」と予測している。
 
 本書はきわめて短い著作ながら、アメリカ大統領選挙の意味づけ、これからの課題、世界情勢の変化などを的確に指摘した優れた著作だといえる。筆者が何よりも言いたいのは、著者の指摘の正しさが、大統領選挙で現実に証明されたものとして、今こそ誰しも読んでおくべき本といえるだろう。